平成時代の職場の変化

  • テクノロジー

2019年4月30日を以て「平成」が終わりを迎え、「令和」の時代に入りました。「平成」の30年余りで職場を取り巻く環境は大きく変化しました。平成時代の職場の変化を1)職場で利用するオフィス機器の変化、2)オフィスの役割の変化、という側面でまとめてみたいと思います。


■オフィス機器の変化

インターネットの普及により仕事のやり方が大きく変わる

平成が始まった1989年当時、インターネットは東京大学や慶應義塾大学などの学術機関が研究用コンピューターネットワーク「JUNET」や「WIDE」のようなネットワークは存在していましたが、民間向けでインターネットサービスの提供は行われていませんでした。

1992年に日本で初めてのインターネットサービスプロバイダー(ISP)が登場したのを皮切りにISP事業に参入する企業が増え、1990年代半ば頃からインターネットの普及が進み始めたのです。

平成元年(1989年)から5年以上が経過して初めてインターネットを利用する環境が整い始めたこともあり、それまではインターネットを活用せずにコミュニケーションや情報収集を行っていたことになります。

上記のグラフは総務省「通信利用動向調査」による企業/事業所におけるインターネット利用率の推移になります。なお、ここでいう「企業」は従業員100名以上の企業、「事業所」は従業員5名以上の事業所となります。「事業所」は平成18年を最後に調査を実施していないため平成18年までの数値となっています。

上述の通り、1990年代半ば(平成7年:1995年以降)よりインターネットが一般的に利用開始され始めますが、ビジネス向けでの普及は急速に進んでいきます。平成10年(1998年)には「企業」の60%以上がインターネットを利用していると回答を行っています。平成13年(2001年)には90%以上の「企業」で利用され、以降100%に近い企業がビジネスにおいてインターネットを利用している状況となりました。

中小規模である「事業所」は「企業」と比較するとインターネットの利用が当初は進まず、企業規模による利用率に差が生まれていましたが、インターネット利用料金の定額化など利用しやすい環境が整備されるに従い利用率が高まってきました。また、メールなどのコミュニケーション手段がビジネスにおいても重要視されるようになったこと、インターネットを利用した情報発信/受信がビジネスにおいて必要となったことなども利用率向上につながっています。

パソコンの普及とスマートデバイスの急速な普及

パソコンは1974年に個人が所有することが可能な小型のコンピューターが登場して以降、1980年代に入りIBMやAppleなどの外資系企業による製品や日本電気、富士通、セイコーエプソンなどの日系企業の製品が登場し、主にオフィスにおける情報端末として購入されてきた経緯があります。

個人向けにも提供されていたものの、一般に普及するきっかけとなったのは1995年(平成7年)にMicrosoftが販売を開始したOS「Windows95」を搭載したパソコンが登場して以降となります。インターネットの普及も手伝い、インターネットへアクセスする端末としてパソコンを利用する人が大幅に増えました。

上のグラフは総務省「情報通信白書」による世帯におけるパソコンの普及率の推移になります。パソコンの普及率はインターネットの普及に合わせて大きく伸びを見せています。Webサイトやブログ、SNSなどインターネット上でのコンテンツやサービスが数多く登場したこともパソコンの普及につながったと言えます。

パソコンの普及よりも急速に普及が進んだのがスマートデバイスになります。特にスマートフォンの普及は早く、総務省「平成30年版 情報通信白書」によれば世帯ベースで保有率が2017年にパソコンを超えました。

このようにパソコンやスマートデバイスが急速に普及してきた大きな要因がインターネットの普及にあります。WebサイトやSNSなどを通じて情報発信を行う企業が増え、メディアからの情報などもインターネットを経由してリアルタイムに受け取ることが可能となり、それらの情報を受け取るための端末としてパソコンやスマートデバイスが必要となったためです。

そして、インターネット上ではテキストなどの文字情報だけでなく、画像や映像などさまざまなコンテンツが提供され、それらをより快適に受信するためにパソコンやスマートデバイスのスペックが向上しています。下記表は平成元年(1989年)に発売されたパソコンと平成30年(2018年)に発売されたパソコンのスペックを比較したものになります。

平成元年(1989年)は先述の通りまだインターネットに接続して利用する端末として利用されるものではなく、一部パソコン通信を利用したやりとりは行われていたものの文書作成やプログラミング用途で利用する端末としての位置づけにありました。

「DynaBook J-3100SS」は必要なものが揃ったオールインワン型のパソコンでしたが、内蔵ディスクは搭載しておらず、外部記憶装置のフロッピーディスクドライブ(FDD)にデータを保存する形になります。「DynaBook T75/G」との性能差を見ると30年でパソコンの性能が大幅に向上したことがわかります。文書作成やプログラミングはもちろんのこと、動画編集なども可能なCPUやメモリが搭載されているパソコンが数多く提供されているのです。そして、このような高性能なパソコンが一般に入手しやすい価格で販売されているのが現在の環境です。

また、パソコン同様に普及が進んでいるスマートデバイスもスペックが向上しており、パソコンと遜色がないスペックを持つに至っています。さらに、パソコンとは別の面でスマートデバイスは人々の生活に入り込んできています。それが1台の端末で利用できる機能を数多く持っていることです。電話やメールなど従来携帯電話で提供されてきた機能に加えて、さまざまな機能が搭載、利用可能となっています。

上記の機能はスマートフォンで利用できる機能の一部であり、年々利用できる機能が増え、また性能も向上してきています。そのため、これら機能を個別に提供してきた単機能製品の利用が不要となっており、これまで複数の機器や製品を利用しなければならなかったのがスマートフォンを1台持つことで実現できる世の中になりました。

また、インターネットの普及とパソコンやスマートデバイスの進化/多機能化によりコミュニケーション手段も変化、多様化してきています。

上記は総務省「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によるコミュニケーション手段の変化に関するグラフです。電話の利用が減り、インターネットを利用したコミュニケーションが増えているのがわかります。特にソーシャルメディアを利用したコミュニケーションが大きく伸びています。

電話でのコミュニケーションが減り、メールとソーシャルメディアでのコミュニケーションが80%以上を占める状況となっていることは、コミュニケーションがオンライン上でのやりとりで十分成立する時代になってきていることがわかります。


■オフィスの役割の変化

オフィスが仕事を行う上で重要な役割を果たしていることの1つとして、対面でのコミュニケーションが行えることや情報共有が手早く手軽に行えることにあります。特にホワイトカラー労働者を抱える企業ではオフィスを持つことがこれまでは前提条件とも言えました。

しかし、インターネットやパソコン、スマートデバイスなどの普及に伴い場所を問わずに作業を行うことが可能となり、また情報共有を電子データによって容易に行えるようになったことを受けてオフィスが持つ役割や求められる職場環境に変化が出てきています。

「作業場所としての変化」と「作業環境としての変化」の2点で現在動きが出てきています。「作業場所としての変化」については仕事を行う上でオフィスにある高性能機器やサービスを必ずしも利用しなくても良くなったことによる変化が挙げられます。「作業環境としての変化」については「作業場所としての変化」がもたらした変化により、新たにオフィスに求められるものが働きやすさへと変わったことによる変化が挙げられます。以下、それぞれの動きについて見ていきましょう。

作業場所の制約が減ったことによる働き方の変化

インターネットの普及や、パソコン/スマートフォンの普及とスペック向上/多機能化について見てきましたが、更に重要なことはそれらが一般向けの世界にも普及してきたことにあります。インターネットが登場し、パソコンが普及し始めた平成の初めはインターネットや高性能なパソコンを利用するには企業が環境を整え、それを活用することが最も効率的なことでした。

しかし、一般家庭においてもインターネットの利用が普通となり、高性能な情報端末を所有するのが当たり前の環境となったことで、オフィスに行かなくても働くことが可能な環境が整ったのです。それに伴い、必要な時以外はオフィスでの勤務を必要としない「サテライトオフィス勤務」や「在宅勤務」という働き方が実現しやすい状況になっているのが現在なのです。

上記は総務省「通信利用動向調査」によるテレワークの導入状況に関する推移です。テレワークを採用している企業の比率は10%台と低い採用率となっています。また、このテレワークにはパソコンやスマートデバイスを利用して外出先で作業を行う「モバイルワーク」も含んでいるので「サテライトオフィス勤務」「在宅勤務」を採用している企業は更に低い比率となります。

このように、現状ではテレワークを採用している企業は少ない状況が続いているのですが、近年テレワークを採用する企業の事例が再び注目を集めています。「モバイルワーク」についてはセキュリティ対策を提供する製品/サービスが数多く登場してきたこともあり、パソコンやスマートデバイスを外出先で利用するための下地ができました。メールやチャット、オフィスソフトなどがクラウドサービスとして提供され、採用企業が増えたことも外出先での活用を活発にする動きにつながっています。

また、「在宅勤務」に関してもテレワーク導入の内20〜30%(「通信利用動向調査」における導入率としては2〜4%程度)にとどまっていますが、大手企業を中心に「在宅勤務」従事者数を増やす取り組みを進めていること、東京オリンピック開催中の混雑を緩和するためにテレワークの利用を官民一体となって進めていることなどの影響を受けて今後導入率が高まっていくことが期待されます。

オフィスでの作業環境の質向上を求める動き

オフィスで働くことのメリットであった高性能端末やサービス利用、情報共有やコミュニケーションの容易さがインターネットや高性能情報端末の普及により薄れてきたことについてまとめてきました。その影響から従来のオフィスに求められていた作業環境と現在求められている作業環境に変化が出てきています。

オフィスはこれまで作業を行うための機器やサービスの提供を行い、情報共有やコミュニケーションを行う場所を設けることで仕事に貢献してきました。しかし、セキュリティ面での懸念や利用アプリケーションによる制限などの影響から最新の情報端末を導入できない/していない企業が多いのが実情です。最新の機器やサービスを利用する機会が増えた社員にとって、オフィスが提供する機器やサービスの方が古臭いものとなってしまっていることも多くなっています。

オフィスが最新の機器やサービスを提供することが必ずしもできなくなった今、オフィスが求められているのは働きやすい環境を整え、社員の生産性向上を支援することへと変わってきているのです。

生産性向上の支援に向けた動きとして「フリースペースの活用」が検討、実行されてきています。この動きについて見ていきましょう。

フリースペースの活用

従来のオフィスでは社員それぞれに自席が用意され、基本的にはそこで作業を行うのが一般的でした。そのような中、外資系企業のオフィスにおいて社員間でのコミュニケーションを取る場所であったり、環境を変えて集中できる場所であったりというフリースペースをオフィス内に設けることで社員の生産性向上を図る動きが出てきます。

日本では島型オフィスのレイアウトを採用している企業がほとんどで、自席周辺でコミュニケーションを取ることは周辺に席を持つ社員の作業効率を落としてしまう面があることからコミュニケーションが取りづらい状況にあります。

喫煙所でコミュニケーションを取る社員もいますが、喫煙者以外が参加することが難しいこと、オフィス内の禁煙が浸透してきていることなどもありコミュニケーションを行う場所の確保が難しくなっている状況にあります。

コミュニケーションを取りやすくするために、フリーアドレス制を導入する企業も増えているものの、人間関係による閉鎖性や席の場所が変わっただけであり集中できる場所にないことなどから効果が出ないケースも多くみられるのです。

そこで注目されているのが「アクティビティベース型ワークプレイス」であり、欧米企業を中心に導入が進んできたオフィスレイアウトの形となります。このレイアウトではオフィススペースに役割を持たせることで目的に応じて働く場所を変えることができるのです。

コミュニケーションが取りやすいワークスペースやコーヒースペース、集中して作業を行いたい時に利用するブース、休憩を取りたい時に利用するスペースなどを用意することにより、社員個別の状況に合わせて最適な場所で作業やコミュニケーションを取れるオフィスレイアウトを用意する形になります。

GoogleやMicrosoftなどIT企業でこのようなオフィスレイアウトが採用されているのが日本においても話題となり、IT企業を中心に導入が進みつつあります。現状、日本においては採用している会社が限られるものの、関連するイベントが開催されるなど注目を集めています。

働き方を変える時代へ

インターネットの普及とパソコンやスマートデバイスの普及により私たちの生活が大きく変わり、それに伴って働き方やオフィスに求められる役割が変化してきたことについて見てきました。ただし、まだ変化の兆しが見えてきた段階であり、具体的な動きとして現れるには時間がかかると思います。

上記は厚生労働省「毎月勤労統計調査」による総労働時間の推移になります。総労働時間は年々減少傾向で推移しているものの、一般労働者に限ってみれば横ばいで推移しています。全体の労働時間が減少しているのは労働時間が短いパート労働者の数が増えているためです。つまり、パソコンやスマートデバイスが普及し、インターネットの普及により従来の非効率なやり方から効率化が実現できたにも関わらず一般労働者においては労働時間が減っていないのです。

効率化されたことで別の作業も担当するケースが増えていること、団塊世代の退職と若者人口の減少による人手不足からくる一人当たりの業務量が増加していることなど、労働時間が減らない原因は考えられます。

総労働時間同様、有給休暇取得率も横ばいで推移しています。上記は厚生労働省「就労条件総合調査」による有給休暇取得率の推移となります。労働時間が変わらず、有給休暇取得率も横ばいで推移しているのは環境が変わっても従来の働き方では恩恵を受けることが難しいことを表していると言えるでしょう。

しかし、これまで見てきたように従来の働き方や働く環境を変える動きが出てきたことで、今後労働時間を減らしつつ成果はこれまでかこれまで以上に出せる労働環境へと変えていこうという機運が企業側にも社員側にも高まっているのが、平成の終わりを迎えた今なのです。

先述の通り、テレワークの推進を官民一体で推進しているのと同じように、平成最後の年である2019年4月から有給休暇の消化日数を5日以上に義務付けることが「働き方改革法案」により決まりました。5日という日数だけでは所得率が大幅に改善することは望めませんが、これをきっかけに働き方の改革を企業が考え始めることが労働時間の短縮や有給取得率向上につながっていくことへ期待が出てくるでしょう。