EDRとXDRの違いとは?
自社に最適なソリューションを見極める選定ガイド
EDR(Endpoint Detection and Response | エンドポイントでの検知と対応)の導入検討を進めるなかで、「XDR(Extended Detection and Response | 拡張ディテクション&レスポンス)というソリューションのほうが良いのではないか」とベンダーから提案を受け、判断に迷うセキュリティ担当者は少なくありません。XDRがEDRより多機能であることは伝わるものの、上位互換として乗り換えるべきか、あるいは別物として位置づけるべきなのかを判断できず、製品選定が滞ってしまうケースが見受けられます。
本記事では、EDRとXDRそれぞれの定義と具体的な違いを整理したうえで、自社のインフラ規模と運用体制から逆算した選定基準を提示します。機能の多さではなく「自社環境でリスクを最短で最小化できるか」という実利的な視点で解説しています。読み終えたあとには、社内提案資料の骨格を組み立てられる状態になっているはずです。
目次
EDRとXDR、それぞれの定義
ランサムウェアによる被害が後を絶たない背景には、従来型のセキュリティ対策の限界があります。多くの企業がこれまで導入してきたEPP(Endpoint Protection Platform | エンドポイント保護プラットフォーム)は、既知の脅威のパターンを登録したシグネチャと照合して攻撃を防ぐ仕組みです。
しかし近年の攻撃者は、シグネチャに登録されていない新種のマルウェアや、正規ツールを悪用する手口を巧妙に駆使しています。そのため、EPPだけで侵入を完全に防ぐことは困難です。こうした状況を受け、侵入されることを前提に検知・対応を行うEDRやXDRの導入が、多くの企業で現実的な選択肢となっています。
ただし、EDRとXDRを混同したまま製品を選定すると、あとから想定外の課題が生じかねません。たとえば、インシデント発生後に「ネットワーク経由でどこから侵入されたのか」を調査したくても、EDR単体では端末の外側の情報が不足しており、原因究明に時間を要するといったケースです。それぞれの定義と役割を正確に理解しておくことが、最適な選定への第一歩となるでしょう。
EDR(Endpoint Detection and Response)の定義
EDRは、PCやサーバーといったエンドポイント上で発生するイベントを継続的に記録し、不審な活動の検知・調査・対応を行うソリューションです。エンドポイント内部の挙動を深く可視化することに特化しています。
プロセスの起動履歴やファイル操作、外部との通信など、端末内で起こったあらゆる動作をログとして蓄積し、EPPをすり抜けた脅威を振る舞いから検知します。脅威を特定した際には、該当端末をネットワークから隔離し、被害の拡大を食い止めることが可能です。
【関連記事】 EDRとは? 専門家不在でも導入できる?運用負荷を抑え、被害を防ぐ4つの重要機能
XDR(Extended Detection and Response)の定義
XDRは、ネットワーク、クラウド、メール、ID管理といった、EDR単体では監視できない領域の動作記録も取り込み、統合的に相関分析を行うプラットフォームです。各領域にはNDRやCASB/CWPPといった専用のソリューションが存在しており、XDRはこれらのデータを横断的に集約します。各領域のデータを紐付けることで、単体では見えにくい攻撃の全体像を浮き彫りにします。
特に、正規の認証情報を使って社内を横移動するラテラルムーブメントのような手口は、端末単体のログだけでは正常な操作と区別がつかないケースも少なくありません。しかしXDRであれば、ネットワークやIDの動作記録と突き合わせることで、潜伏する異常を検知できます。
用語解説
・ラテラルムーブメント
攻撃者が最初に侵入した端末から、社内ネットワーク内のほかのシステムへと横方向へ移動しながら被害を拡大する手口。
・NDR(Network Detection and Response)
ネットワーク内を通過する通信パケットを監視し、不審な振る舞いを検知するソリューション。EDRが端末内部の不審な振る舞いを検知するのに対し、NDRはネットワーク上の通信を監視対象とする。
・CASB (Cloud Access Security Broker)
企業のクラウドサービス利用を可視化・制御するセキュリティソリューション。
【参考】:CASB(キャスビー)とは?
・CWPP(Cloud Workload Protection Platform)
クラウド上で動作するワークロード(仮想マシン、コンテナなど)を保護するソリューション。
EDRとXDRの違いは?
ここでは、両者が具体的に何を可視化するのか、そしてなぜXDRが登場したのかを掘り下げていきます。
XDRはEDRを監視システムの一部として活用する仕組み
XDRは、近年のサイバー攻撃がPC単体で完結せず、メールやクラウドなど複数のITサービスやIT機器をまたいで行われるようになったために考案されたソリューションです。その構成を整理すると、以下のようになります。
「XDR = EDRをはじめとした各種エンドポイント監視ツール(PCで検知したアラート)+ほかのITサービスやIT機器で検知したアラート+これらのアラート同士を自動で紐付ける分析機能」
つまりXDRは、EDRに取って代わるものではなく、EDRを監視システムの一部として取り込んだうえで、より広範囲な監視対象からのアラートを組み合わせて分析するプラットフォームです。
表: ひと目でわかるEDRとXDRの違い
| 項目 | EDR | XDR |
| 監視対象 | 端末のみ | 端末+ネットワーク+クラウドなど |
| 分析対象 | 端末内の挙動分析 | 端末+ネットワーク+クラウドなどにまたがった相関分析 |
| 導入の前提条件 | 各端末へのエージェントインストールのみ | 連携するセキュリティ製品が既に存在することが前提 |
| 運用に必要なスキル | エンドポイントのログの読解・マルウェア分析 | ネットワーク・クラウド・IDを横断した広範な知識 |
| インシデント対応範囲 | 端末の隔離・プログラムの実行停止(端末単体の対処) | 連携する外部製品(EDRやID管理製品等)への遮断やアカウント停止命令の連動(IT環境全体の対処) |
| 主な導入メリット | 端末内の動作の可視化 | 攻撃ストーリー全体の把握と運用の効率化 |
| 向いている環境 | ネットワーク構成がシンプルで、エンドポイントとサーバーが主な管理対象となる環境 | 管理対象のネットワークがオンプレミス環境とクラウド環境をまたいで広がっているハイブリッド環境 |
【検知の進化】 EDRをすり抜ける「なりすまし」や「ID悪用」の検知
近年の攻撃では、盗み出した正規の認証情報(ID)を悪用し、社内ネットワークやクラウド環境内を横移動する手口(ラテラルムーブメント)が増加しています。この場合、エンドポイント上の操作そのものは「正常な操作」に見えてしまうため、EDR単体では区別がつかず、検知が遅れて被害が拡大するリスクを否定できません。
しかし、XDRであれば普段使われない場所からのログインや不自然なデータ転送といった、領域をまたぐ複数のアラートを照合できます。これにより、単体製品では見逃されやすい巧妙な攻撃も、早期に突き止めることが可能です。
【運用の進化】 複数機器のアラート統合と分析・調査の自動化
これまで、メールセキュリティやネットワーク監視、そしてEDRといった個別の対策製品は、それぞれが独立して大量のアラートを発していました。この場合、担当者が各製品の管理画面を確認し、手作業で関連性を調べなければなりません。
XDRは、これら複数の製品から届くアラートを自動的に関連付け、「攻撃の全体像と一連の経過」としてまとめ上げます。従来、セキュリティの専門家が膨大なログを突き合わせて行っていた「事実確認の作業」が自動化されるため、MTTI(平均識別時間)やMTTR(平均復旧時間)といった、問題の発見から復旧完了までにかかる時間を大幅に短縮できるようになります。
用語解説
・MTTI(Mean Time To Identify)
サイバー攻撃発生から侵入を検知するまでに要する期間であり、(検知時刻)-(事象発生時刻)の平均時間。※MTTIは検知時刻からインシデント調査開始までの時間を指す場合もある。
・MTTR(Mean Time To Recovery)
インシデントを特定してから復旧が完了するまでの平均時間。いずれも短いほどセキュリティ対応能力が高いことを示す。
・SIEM(Security Information and Event Management)
XDR同様に複数ソースのログを集約して相関分析を行うソリューション。セキュリティ脅威の検知に特化するXDRに対し、コンプライアンス違反やシステム動作異常の検知など、より広範な用途で活用される。
自社に合うのはEDR?XDR?判断するための2つの軸
EDRとXDRのどちらを選択すべきかの判断軸はシンプルで、「守るべき資産がどこにあるか(インフラの複雑性)」と「セキュリティ対応を誰が担えるか(運用体制の成熟度)」の2つです。この2軸で自社の現状を整理すると、最適な選択肢が明確になります。
まず、下の図で自社がどの位置に当てはまるかを確認してください。
図:自社に最適なセキュリティ対策の選定マトリクス
用語解説
・MDR(Managed Detection and Response)
EDRやXDRの運用・監視・対応を外部の専門家に委託するサービス。社内に専任のセキュリティ担当者がいない、あるいは不足している場合に有効な選択肢。
1. EDR+MDR(シンプルなインフラ×リソースが限られている体制)
守るべき資産が主にオンプレミスの端末やサーバーに集中しており、専任のセキュリティ担当者が不在、あるいは他業務と兼務している環境です。また、社内システムの大半がオンプレミスで、クラウドサービスの利用が限定的な状況もこのケースに含まれます。
こうした環境では、高機能なXDRを導入しても、アラートを分析・対応できる人員がいなければ機能しません。まずはEDRでエンドポイントの防御を固めつつ、アラートの分析と対応をMDRに委ねることが、最短でリスクを最小化する現実解といえます。将来的にXDRへの移行を見据える場合でも、まずはこの組み合わせでEDRの運用を軌道に乗せることが、次への最短経路となります。
2. EDRの高度活用(シンプルなインフラ×高度な運用体制)
守るべき資産が主にエンドポイントに集中しており、かつ社内にSOCやセキュリティ専任チームがある環境です。情報システム部門にセキュリティ専任者が複数いて、インシデント対応の手順が整備されている企業が該当します。
このケースでは、XDRを追加する前にEDRを深く使いこなすことが先決です。端末のログを徹底的に分析し、フォレンジック対応まで自社で完結できる体制は、多くの企業にとって十分に高い防御水準です。XDRの導入よりも、EDRの検知ルールのチューニングやアラート対応の高度化に投資するほうが、コストパフォーマンスの高いリスク低減につながるでしょう。ただし、業務のクラウド移行が進んだ段階で、後述する④への移行を検討するタイミングが訪れます。
用語解説
・SOC(Security Operation Center)
セキュリティ監視機器が検知したアラートを受信、分析し、必要な対応を行うオペレーションセンター。
・フォレンジック対応
サイバー攻撃や情報漏えいなどのインシデント発生時に、原因や被害範囲、侵入経路などを調査・分析し、証拠保全や再発防止に役立てる対応。
3. XDR+MDR(複雑なインフラ×リソースが限られた体制)
Microsoft 365やGoogle WorkspaceなどのSaaSを全社導入し、テレワークが標準化している一方で、セキュリティ担当者が1〜2名と少ない環境です。攻撃経路がエンドポイント以外にも広がっているため、EDRだけでは検知網の穴が埋まりません。
最も避けるべきは、インフラの複雑さに対してEDRのみで対応しようとすることです。攻撃者が窃取IDやクラウドを経由して侵入した場合、端末側に痕跡が残らず、発覚が大幅に遅れるおそれがあります。XDRでインフラ全体を監視しつつ、運用の負荷をMDRで補う組み合わせが現実的な選択です。
4. 単一ベンダー型のXDR・Open XDR(複雑なインフラ×高度な運用体制)
グループ会社や海外拠点を含む複数拠点を持ち、クラウドとオンプレミスが混在する大企業や、セキュリティ投資を経営課題として位置づけている中堅企業が該当します。XDRによる相関分析を自社内で完結させ、インフラ全体のリスクを一元管理できる体制が整っている環境です。
既存のセキュリティ製品を特定ベンダーで統一していれば統一しているベンダーのXDR、複数ベンダーが混在していればOpen XDRが候補となります。単一ベンダー型のXDRはデータ連携の精度が高く導入しやすい一方、特定ベンダーへの依存度が高まる側面もあります。Open XDRは柔軟性に優れますが、製品間の連携設定に相応の工数がかかるため、導入前に運用コストを含めた試算が必要です。
EDR・XDR導入検討の第一歩
共通していえるのは、最初から全領域を統合するXDRを目指すとプロジェクトが長期化しやすく、その隙に攻撃を受けるリスクが高まるという点です。現時点でEDRが未導入であれば、まずはEDRの導入を優先させましょう。運用が軌道に乗った段階で、必要に応じてXDRへと拡張していくアプローチが、セキュリティ強化への着実な一歩となります。
【Q&A】自社に最適なのはEDRとXDRどっち?5つのケーススタディ
現場でよく聞かれる5つの問いに対し、実務的な観点から回答します。
Q1:予算と人員が限られています。導入すべきはどちらですか?
まずはEDRでエンドポイントを守ることが、最短かつ最良の選択といえます。
攻撃の最終ターゲットは、常に重要なデータです。限られた予算で広範なXDRを導入しても、運用が追いつかなければ「検知はできるが対応できない」という形骸化した状態に陥るリスクがあります。まずはエンドポイントの防御を確実に固めることが最優先事項となるでしょう。
Q2:テレワーク主体でVPNがボトルネックになっています。境界防御の強化が必要な場合は?
このような環境ではXDRの有効性が極めて高まります。
端末が社内ネットワークの外にある場合、EDR単体では認証情報の盗用によるクラウドへの不正アクセスを検知しきれないことがあります。IDやSaaS、ネットワークのログを統合して俯瞰できるXDRが、リスク最小化の最短ルートです。
Q3:セキュリティ担当者が1名しかいません。XDRの導入は負荷が高いですか?
XDRは分析を自動化してくれますが、最終判断には高度な知識が求められるため、運用のハードルは決して低くありません。
担当者が少人数の場合、MDR(外部監視サービス)の併用が成否を分けます。ツール単体で解決しようとせず、導入と同時に運用体制をセットで検討することが重要です。
Q4:すでにEDRを導入済みです。XDRを展開すべきタイミングはいつですか?
守るべき資産が端末の外へ広がったタイミングが検討の契機です。
業務のクラウド移行が進み、メール経由の攻撃やIDの不正利用が無視できないリスクになった段階で、既存のEDRをベースに監視対象を拡張するXDR化を検討してください。これまでのEDR運用実績は、そのままXDRを使いこなすための強固な基盤となります。
Q5:取引先から「サプライチェーン・セキュリティ」の強化を求められました。
事後調査のスピードと説明責任を重視するなら、XDRが有効です。
インシデント発生時の原因究明において、EDRが提供できるのは主に端末内の証拠に限られます。対してXDRであれば、侵入から拡散までの経緯を即座にレポート化できるため、取引先への説明責任を果たすために活用できます。
まとめ
EDRかXDRかの選択の正解は、機能の多さではなく、自社のIT資産がどこに分散し、どのような攻撃対象領域(アタックサーフェス)を持っているかという事実の中にあります。どれほど高度なツールを導入しても、運用しきれなければリスクは低減できません。SOCの有無やMDRの活用を含めた運用リソースを冷静に直視し、実効性のある防御体制を築くことが重要です。
また、完璧な監視体制を求めて選定に時間を費やすよりも、まずは最も侵害されやすいエンドポイントをEDRで早急に固めることが、リスク最小化への最短経路です。セキュリティ対策に完成はありません。今できる一手を着実に積み重ねることが、結果として組織全体の防御力強化につながります。
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