ゼロトラストとは?
実現方法や従来のファイアウォールとの違いを解説
近年、新型コロナウイルス対策や働き方改革の一環として、テレワークを導入する企業が増えています。しかし、クラウドやテレワークの導入時に気になるのが、情報漏えいや不正アクセスなどのセキュリティリスクです。
そこで本記事では、現在のICT環境に適したセキュリティモデル「ゼロトラスト」について解説します。
目次
- 従来のファイアウォールを利用したセキュリティ対策ではないゼロトラストとは?
- ゼロトラストセキュリティモデルが注目される背景
- ゼロトラストセキュリティモデルを実現するメリット・必要性
- ゼロトラストセキュリティモデルでも防ぎきれないポイント
- ゼロトラストセキュリティモデルを実現する方法
- ゼロトラストモデルはこんな企業におすすめ
- ゼロトラストモデルの導入事例を紹介
- まとめ
従来のファイアウォールを利用したセキュリティ対策ではないゼロトラストとは?
「ゼロトラスト」とは「Zero(ない)」「Trust(信用)」を組み合わせた語で、「誰も信用しない」ことを意味します。従来のセキュリティは、ファイアウォールによってネットワークの内外に境界線を敷く、いわゆる「境界型セキュリティ」という閉鎖的なシステムによって成り立っていました。
しかし今日では、オープンネットワークでの運用が前提となっているクラウドサービスの普及が進んでいます。この状況では、真の意味で「閉じたシステム」など存在しないという見方が、IT関係者の間では広まっています。そこで多くの企業が導入を急いでいるのが、ネットワーク内部を含む複数の侵入口からのサイバー攻撃リスクに備える、ゼロトラストです。
ゼロトラストの基本理念としては、次の事柄が挙げられます。
- 何も信用しない
- すべてのリソースを保護する
- その都度アクセス要求を認証・評価する
- ユーザーに与えるアクセス権限を必要最小限にとどめる
ゼロトラストセキュリティモデルが注目される背景
ゼロトラストセキュリティが注目されている背景としては「クラウドシフトや新型コロナウイルスの感染対策によって、テレワークが拡大していること」が挙げられます。
境界型セキュリティは、自社のネットワーク内での情報保護を前提としています。しかし現在は、自社のデータやシステムを外部のクラウド環境に置くことも珍しくありません。つまり、境界型セキュリティが前提としている内か外かという区別は、もはや意味を成さなくなってきているのです。
この傾向は、新型コロナウイルスのパンデミックによりテレワーク導入が急速に拡大する中、ますます強まってきました。テレワークにおいては、従業員はさまざまな場所やデバイスから自社システムにアクセスします。
このような状況では、攻撃者やマルウェアの侵入を完全に防ぐことは不可能です。そこで自社のネットワークの内側、あるいはエンドポイントにまで保護を拡大する、ゼロトラストモデルが注目を集めているわけです。
ゼロトラストセキュリティモデルを実現するメリット・必要性
ゼロトラストセキュリティを導入するメリット・必要性としては、次のようなことが挙げられます。
メンテナンス担当者の負担を軽減できる
ゼロトラストセキュリティは、メンテナンス担当者の負担を軽減する効果があります。というのも、すべての機能をクラウド上で構築するため、管理が簡単に行えるからです。また、企業規模の拡大・縮小にも臨機応変に対応できます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で支えとなる
ゼロトラストセキュリティは、企業のDXを推進する効果もあります。先述したようにゼロトラストセキュリティは、クラウドとの相性がよいという特性を持ちます。これによって安定したクラウド環境を実現できれば、それを土台にDXの推進が可能です。
徹底した防衛機能でリスクを最小限に抑えられる
ゼロトラストセキュリティは、徹底した防衛機能でサイバーリスクを最小限に抑えられます。厳重な監視機能により、システム内部でのリスクも軽減します。そのため、万一不正アクセスが発生しても、被害を最小限に抑えられます。
ゼロトラストセキュリティモデルでも防ぎきれないポイント
以下では、ゼロトラストを導入しても解決しない問題について解説します。
内部からの意図的な不正行為
ゼロトラストは「常に検証する」ことを原則としますが、正規の権限を持った内部の人間が意図的に不正を行うケースには、根本的な対応が難しい場合があります。
- 機密情報の持ち出し: ゼロトラストモデルは、ユーザーの「認証(あなたは誰か)」と「認可(何ができるか)」を厳格に検証しますが、認証をクリアしたユーザーがその権限を悪意を持って行使するという「人間の意図」を検知し、アクセスをブロックすることが困難です。顧客データや企業秘密へのアクセス権限を持つ従業員や業務委託スタッフが、退職前にデータをUSBメモリや個人クラウドストレージに意図的にアップロードするようなケースです。
- 権限の悪用:ゼロトラストは最小特権の原則を推奨しますが、業務遂行に必要な権限自体が不正利用されると防ぐのが困難です。例えば、システム管理者や機密情報へのアクセス権を持つ従業員が、意図的にデータを持ち出すようなケースです。
既知の脆弱性への対応の遅れ
ゼロトラストは「すべてのリソースを保護する」ことを原則としますが、組織がシステムの脆弱性に対応するスピードが遅い場合、その隙を突いた攻撃を防ぎきれません。
- パッチ適用遅延:ゼロトラスト環境でも、OSやアプリケーション、ミドルウェアに存在する既知の脆弱性に対するパッチ適用が遅れると、その部分を狙った攻撃(ランサムウェアなど)に晒されます。
- 設定ミスや不備:複雑なゼロトラストポリシーの設定ミスや、クラウドサービスの設定不備(シャドーITなど)がセキュリティホールとなり、そこから侵入を許してしまうリスクがあります。
ゼロトラストセキュリティモデルを実現する方法
ゼロトラストセキュリティを実現するには、どのような取り組みをすればよいのでしょうか。以下では、ゼロトラストセキュリティの実現に役立つツールや具体的な製品について解説します。
セキュリティソリューションを導入する
ゼロトラストセキュリティを実現するための近道は、セキュリティに関するツールを導入することです。以下では、主なセキュリティソリューションをいくつか紹介します。
EPP
「EPP」とは「Endpoint Protection Platform」の略で、自社のシステムにアクセスする端末(エンドポイント)をセキュリティリスクから保護するためのツールです。AIの搭載により、マルウェアを自動検知したり、アラートを発したりしてくれます。
SOAR
「SOAR」とは「Security Orchestration, Automation and Response」の略称で、その名の通りセキュリティ運用のオーケストレーションと自動化、そして本格的なインシデント対応を実現するツールです。セキュリティ運用の効率化に役立ちます。
IAM
「IAM」とは「Identity and Access Management」の略称で、IDとアクセス管理の適正化を行うツールです。アクセス制御はゼロトラストの肝とも言えるセキュリティ対策なので、IAMは非常に大きな役割を担います。
EDR
「EDR」とは「Endpoint Detection and Response」の略で、エンドポイントセキュリティ対策用のツールです。脅威に対する予防効果が主となるEPPに対し、EDRは「攻撃の早期検知や攻撃経路・影響範囲の調査」「エンドポイントに被害が生じたあとの復旧」を主な目的としています。
CWPP
「CWPP」とは「Cloud Workload Protection Platform」の略で、複数のクラウドサービスにおけるワークロードの一元的な監視・保護を可能にするツールです。このツールを活用することで、企業が利用するクラウドシステム全体のガバナンスを強化するとともに、システム担当者の管理業務を効率化することが可能です。
ゼロトラストモデルネットワークをサポートしてくれる製品を導入する
ゼロトラストの概念に基づく、ネットワークへのサポートに秀でた製品を導入するのも1つの手です。代表的な該当製品としては、以下の3つが挙げられます。
HENNGE One Identity Edition
「HENNGE One Identity Edition」は国内シェアNo.1(※)のクラウドセキュリティサービスです。IAMとしての機能のほか、オンプレミスへのアクセスをセキュアにするさまざまなアクセスコントロールを提供しています。
※ ITR「ITR Market View:アイデンティティ・アクセス管理/個人認証型セキュリティ市場2025」IDaaS市場:ベンダー別売上金額シェアにて2021年度、2022年度、2023年度、2024年度予測の4年連続で1位を獲得
Cisco Duo セキュリティ
「Cisco Duo セキュリティ」は、シスコシステムズ合同会社が提供するゼロトラストセキュリティ対応のプラットフォームです。同製品を活用することで、あらゆるユーザーとデバイスによるアプリケーションへのアクセスについて、安全性を確保できます。
BeyondCorp リモートアクセス
「BeyondCorp リモートアクセス」は、Google社提供のゼロトラストセキュリティを支援するツールです。こちらは同社が長年使用してきたツールでもあり、クラウドへの簡単かつセキュアなアクセスを実現します。
ゼロトラストモデルはこんな企業におすすめ
上記で述べたような特徴から、ゼロトラストセキュリティは次のような企業におすすめです。
- クラウドシフトを推進したい企業
- テレワークを推進したい企業
- モバイルデバイスやアプリケーションの利用を推進したい企業
ゼロトラストモデルの導入事例を紹介
HENNGEの社内でのゼロトラストモデルの導入事例をご紹介します。
HENNGE社内では、HENNGE One Identity Editionのシングルサインオン(SSO)機能を使って、Google Workspaceなど複数のクラウドサービスへのアクセスを統合管理しています。これにより、社員は多数のパスワードを管理する必要がなくなり、利便性が向上しています。また、多要素認証(MFA)を導入することで、不正アクセスに対するセキュリティを強化しています。
また、HENNGE Oneと400を超えるさまざまなクラウドサービスを組み合わせることが可能で、社員は場所やデバイスを問わず、安全に業務に必要な情報にアクセスできます。これにより、リモートワークやフレックスタイム制がスムーズに機能する基盤が確立されています。
まとめ
従来の境界型セキュリティは、一度ファイアウォールが突破されると脆いという弱点を抱えていました。また、ファイアウォールの内側で起こる内部不正や人的ミスに対しても無力でした。これに対してゼロトラストセキュリティは、「あらゆるエンドポイントからのアクセス・トラフィックを無条件に信用しない」という理念のもとで運用されるセキュリティモデルです。ゼロトラストセキュリティは、日本社会でも導入が進んでいるクラウドサービスやリモートワークの運用に適しています。そのため今後ますます多くの企業が取り入れていく、と予想されています。

